『絆創膏』

今日は職場で、

書類でうっかり指を切ってしまった。

毎日大量の書類を扱っている身としては、

別に珍しいことではない。

そういうこともある。

そのために、毎日絆創膏を持ち歩いている。


ところで、私の祖母は、

絆創膏のことを「カットバン」と

呼んでいた。

どうやら地域によって、

地域独特の呼び方があるらしい。



『絆創膏』

 あ、と思ってしまった時には遅い。例えば、紙で指に切り傷を入れてしまった時とか。
 学校では、どうしても大量のプリントを扱う。だから、年に何回かは、どうしてもそんなときがある。切ったことに気付かないことも、珍しくはない。
 でも、わざわざそんな軽いケガで、絆創膏を取りに行くために保健室に行くのも面倒だ。ここは四階、保健室は一階。だから、そもそも絆創膏をせずに自然に治してしまうこともある。
 だけども、今日やったのは、場所が悪かった。右手の手の甲側、中指のしわに沿って入ってしまった。血が滲み出る。これは痛い。しかも授業中だ。
 ガサツな俺は、絆創膏なんか持ち合わせているはずがない。まあ、持っていたとしても、授業中なら出して貼ることはやりづらい。この席が、窓際の列の一番後ろだったとしても。
 とりあえず、腰ポケットからティッシュを出す。鼻をかむやつもいるから、これは別に不自然なことではない。それを傷口に当てて、その時間をやり過ごそうとする。
「で、この動詞の活用ですが……前田くん、分かるかね」
 前のやつが当てられた。この先生は席順に当てる。意識を素早く、傷口から教科書と予習をしてきたプリントに戻す。
「この動詞の活用は……」
 理系の俺は、古典の授業が正直少し苦手だった。今朝、隣の席のエリートな腐れ縁から写してもらった箇所を確認し、前田が答えた箇所が正しいことを確認する。
「はい、その通りですね。ではついでに、その文の現代語訳をしてみなさい、次、笹本くん」
 来た。そこもきちんと写してある。俺はその問いに、その写してくれたまんまを答えた。意味はあまり分かっていないが。
「はい、それでいいでしょう」
 隣のあいつ、きっと内心笑ってるんだろな。

 チャイムが鳴り、学級委員長の隣のあいつが号令をかけて、礼をして授業が終わった。次の授業は移動しなければならない。血は止まったが、まだ痛みがある。絆創膏を取りに行く間はなさそうだ。昼休みだな。
 次の授業の教科書やノートを出して、それらと筆箱と、傷口を止血して机の上に置いていたティッシュを持って、ティッシュをくずかごに持っていこうとすると、後ろからぽんぽんと、肩を二回叩かれた。
「指、切ったでしょ」
 腐れ縁の野郎がいた。何見てるんだ、抜け目のないやつめ。いや、血の付いたティッシュも持っているし、いつも右手で持つ教科書類を、今は左手で持っているのもあるか。それにしても。
「別に大丈夫だ」
「本当に?」
 と言いながら、俺の右手を取ってくる。おい待て、男同士だぞ。
「痛いでしょ、これ」
「我慢できる」
「絆創膏、あるよ?」
 ……その優しさを断れるほど、俺の心の壁は高くなかった。
「へいへい、じゃあしてくれよ」
「絶対その方がいいよ、擦れたらまた痛い思いするんだから」
 俺が教科書などを自分の机に置くと、あいつは本当に鞄から絆創膏を出してきた。しぶしぶ右手を差し出してやると、あいつは丁寧に小さいサイズの絆創膏をそこに巻き付けてくれた。
「はい、これで大丈夫」
「あいよ」
 再び左手で荷物を取って、同じ授業に向かうあいつと歩き出す。こちらを気にしながら、にやにやしている女の子が三人。おい、見世物じゃねえぞ、そこの腐女子三人組。別に俺達はそういう関係じゃないからな。
「用意がいいな、お前」
「ただの心配性だよ」
 そう言って、俺の真横を、何事もなかったかのように歩く。
 指に絆創膏が貼られている感覚。しかし、あいつがしてくれた、ということを、まったく意識せずにはいられない俺がいることに、内心苦笑していたのは秘密だ。

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